輸血関連循環過負荷 (Transfusion associated circulatory overload: TACO)は、特に患者の心、腎、肺機能が低下している場合、輸血による過剰な容量負荷が心原性肺水腫を起こし、呼吸困難をきたす病態とされています。犬や猫の高齢化に伴い、弁膜症や肥大型心筋症の罹患率が増加している現在、TACOは致死的な輸血副作用の中でも遭遇頻度が高く、警戒すべき病態と個人的には感じています。しかしながら今回紹介する文献では、輸血前に循環過負荷を呈している症例に対しても、輸血療法は比較的安全に行える結果となっています。
心強いエビデンスを提供してくれた文献ではありますが、重度の心疾患や腎機能低下を示した症例は含まれていないこと、また本文中では輸血量中央値で13.8 mL/kg、輸血時間中央値が7時間5分と一般的に実施される輸血療法よりも慎重な投与を行っているようです。
そのあたりも考慮しながら以下の紹介文を読んで頂き、日々の診療にお役立て頂ければ幸いです。
(担当: 瀬川、青木)
輸血前後における貧血症例の左心径の変化
著者: Rebekah E Donaldson, Joonbum Seo, Virginia Luis Fuentes, Karen Humm.
掲載誌: J Vet Intern Med. 2021 Jan;35(1):43-50. PMID: 33284468.
背景: 左心拡大のある貧血の犬や猫が輸血関連循環過負荷 (TACO)に陥りやすいかどうか、また輸血が貧血症例の左心径に影響を及ぼすかどうかは明らかにされていない。
目的: 重篤な貧血を呈している症例の左心径に輸血が及ぼす影響を評価すること。
供試動物: 大学病院に来院した犬20頭、猫20頭。
方法: 輸血が必要な貧血症例に対して前向き観察研究を実施した。輸血前と輸血後24時間以内にPCV、総蛋白の測定と心臓超音波検査を行い、その他に症例情報、体重、臨床経過、輸血時間、輸血量ならびに治療内容を記録した。統計解析はノンパラメトリック検定を用い、数値は中央値 [範囲]で表した。また、Bonferroniの方法に基づき、P<0.006である場合を有意な差とみなした。
結果: 輸血後に、PCVの上昇 (猫:12% [6-16]→18% [10-33]; P=0.001、犬: 14% [7-24]→25% [9-37]; P=0.001)、心拍数の低下 (犬のみ: 104bpm [86-166]→87bpm [56-138]; P<0.001)ならびに左室内径短縮率の低下 (猫: 57.1% [36.0-84.7]→41.0% [28.1-69.6]; P=0.002、犬: 33.79% [19.33-62.79]→31.89% [19.06-51.47]; P=0.006)が認められた。その他、左室収縮期内径の拡大 (猫のみ: 6.5 mm [2.7-9.8]→7.9 mm [5.3-11.1]; P=0.001)、体重で標準化した左室拡張末期径の拡大 (犬のみ: 1.48 [1.25-1.79]→1.57 [1.33-2.00]; P=0.001)ならびに体重で標準化した左室収縮末期径の拡大 (犬のみ: 0.87 [0.58-1.19]→1.00 [0.74-1.36]; P=0.001)が認められた。一方で、循環過負荷の発生状況は輸血前(猫: 14/20頭; 70%]、犬: 9/20頭; 45%)と輸血後 (猫: 12/20頭; 60%、犬: 11/20頭; 55%)とで変化がみられなかった (P=0.64)。
結論と臨床的意義: 輸血前に容量負荷の兆候がすでにみられる場合でも、輸血療法は充分適応可能であることが明らかとなった。
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