秋田犬は赤血球内のカリウム濃度の特性により献血ドナーの対象外とされていることが多いですが、何がどのように問題視されているのか明確に記されていることは乏しいように思います。そこで、今回紹介する論文は直接的に輸血とは関係のないものですが、秋田犬の赤血球がどのように他の犬種と異なるのか、そして秋田犬でもその他の犬種と同じような赤血球を有していることはあるのかということを研究しています。
主な結果は以下のAbstractに示してありますが、赤血球内のカリウム濃度は2割の秋田犬において高値(34.4mmol/L)であり、8割の秋田犬では一般的な犬種と同様に低値(2.4mmol/L)であったと本文中に書かれていました。筆者はブラジルの研究者とその協力者であるブリーダーなのですが、犬の輸入元は日本、アルゼンチン、イタリア、スペインと複数方面に渡っているそうです。過去の類似の研究においてもおよそ2割の秋田犬のカリウム濃度が高値であると指摘されていることから、秋田犬における赤血球内高カリウムの頻度は世界的に同様であるかもしれません。
そうなると、赤血球内のカリウム濃度の特性に関して言えば8割の秋田犬が一般的な犬種と同様である可能性がありますので、すべての秋田犬を献血ドナーの対象外とするべきかどうかは個人的に議論の余地があるように思われました。赤血球内のカリウム濃度の測定はそれほど難しい手技ではないので、当研究会としても検討を重ねていきたいと思います。
(担当: 瀬川)
赤血球内のカリウム濃度により分類した秋田犬の臨床検査および心電図の特徴
著者: Francisco O Conrado, Simone T Oliveira, Luciana A Lacerda, Mariana O D Silva, Nicole Hlavac, Félix H D González.
掲載誌: Vet Clin Pathol. 2014 Mar;43(1):50-4. PMID: 24405428
背景: 犬の赤血球はナトリウム濃度が高くカリウム濃度が低い(LK)ことが一般的であるが、犬種によっては成熟赤血球においてもNa-Kポンプが機能しており、ナトリウム濃度が低くカリウム濃度が高い(HK)ことが指摘されている。そのような情報を整理しておき高カリウム血症に対するアプローチを誤らないよう気を付けなければならない。
目的: HKおよびLKの秋田犬のCBC検査、血液生化学検査、尿検査、心電図のデータを比較すること。
方法: 赤血球内のカリウム濃度(KRBC)を秋田犬48頭にて測定し、血漿カリウム濃度より5倍以上高いKRBCを示した場合にHK群、5倍未満の場合にLK群に分類した。
結果: HK群に該当した秋田犬は10頭(21%)であった。HK群の血漿カリウム濃度は6.6mmol/Lであり、LK群の血漿カリウム濃度の4.4mol/Lより有意に高値を示していた(P < .001)。それ以外の血液生化学検査は両群に差がみられなかった。CBC検査については、HK群においてヘモグロビン濃度、PCV、赤血球数、MCHCが低値であり(Hgb: HK; 13.5g/dL, LK; 15.9g/dL, P < .001, PCV: HK; 42.9%, LK; 46.7%, P = .009, RBC: HK: 610万/µL, LK; 740万/µL, P < .001, MCHC: HK; 31.3g/dL, LK; 34.0g/dL, P < .001)、MCVは高値であった(HK: 70.0fL, LK; 63.4fL, P < .001)。尿検査および心電図は両群間に差がみられなかった。
結論: HK群の秋田犬はカリウム濃度以外にCBC検査においても有意な変化が認められたため、秋田犬の血液検査を行う場合はHKのフェノタイプが存在する可能性を念頭におく必要があると思われた。
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