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2023年1月24日3 分

あらためて猫のAB型について

最終更新: 2023年8月17日

猫の輸血を行う上で、ABシステムによる血液型分類は最も有名です。多くの猫はA型ですが、B型の猫も少数ながら存在していて過去に遭遇したことのある先生も多いことと思われます。しかし、AB型となると、遭遇頻度はB型以上に少なく、そもそもどのようにして遺伝していくのか、あまりご存じない方もいらっしゃるかもしれません。そこで、今回紹介する文献は1996年と非常に古い文献なのですが、猫のABシステムの遺伝形式について言及しているものとなります。

結論から申し上げますと、A型はAB型に優性(近年では「顕性」と呼称)、AB型はB型に優性。つまりA>AB>Bという遺伝形式が文献内で提唱されています。複雑な話となりますが、たとえば遺伝子型A/B(A型)の雌猫とA/AB(A型)の雄猫の間には、A/A(A型)、A/AB(A型)、A/B(A型)、AB/B(AB型)が生まれる可能性があります。他にも、遺伝子型A/B(A型)の雌猫とA/B(A型)の雄猫の間には、A/A(A型)、A/B(A型)、B/B(B型)が生まれる可能性があります。つまり、A型の親猫同士からAB型やB型の子猫が生まれることもあるということになります。一方で、B/B(B型)の親同士からはAB型の子猫は生まれません。

ただし、本文中で筆者たちが述べていますが、この遺伝形式だけでは説明のつかない場合もあり、27年経った現在も猫のAB型について研究が綿々と続いています。たとえば、非常に稀なと言われるAB型ですが、ラグドールなど実はAB型が多い品種もその後に報告されていたりします。今一度、あらためて猫のAB型について理解を深めるきっかけにされてみてはいかがでしょうか?

(担当: 瀬川、中村、近江)

猫のABシステムによる血液型分類におけるAB型について

著者: M E Griot-Wenk, M B Callan, M L Casal, A Chisholm-Chait, S L Spitalnik, D F Patterson, U Giger.

掲載誌: Am J Vet Res. 1996 Oct;57(10):1438-42. PMID: 8896680

目的: AB型の猫について、遺伝形式、発生頻度、生化学的性状を明らかにすること。

供試動物: ブリーダーや一般家庭の雑種、純血種の猫、および血液型判定を行う大規模な検査機関の血液を研究対象とした。

方法: 大学の検査機関からAB型の血液サンプルを取り寄せ、また、遺伝形式の把握のために試験的な交配や家系調査を実施した。血液型判定にはスライド凝集法を用い、その他にフローサイトメトリー、高性能薄層クロマトグラフィーによるガングリオシド解析を行ってAB型抗原について検討した。

結果: アメリカとカナダにおいてAB型の猫は非常に珍しく、9,239頭中13頭のみ(0.14%)であり、B型が確認されている猫種のみAB型が認められた。AB型の猫の血液はA型とB型抗原の両方の特徴を有していた。AB型の猫の家系調査から、A、B、ABの3種の対立遺伝子によって成立していることが確認され、A>AB>Bの順番で優性であることが明らかとなった。しかしながら、AB型の猫はそれ以外の遺伝形式が存在している可能性も少なからず示唆された。

結論: 猫のAB型は極めて遭遇頻度が少なく、人間のAB型とは異なり独立した遺伝形式であることが明らかとなった。

臨床的意義: B型の雌猫は抗A型抗体を有するため、AB型の子猫を出産した場合、A型の子猫を出産した場合と同様な新生子溶血を引き起こす危険性に注意が必要である。また、AB型の猫にはAB型あるいはA型の血液を輸血することが最善と思われる。

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