犬の血小板輸血について、まとまった症例数の研究報告がついに発表されました。先日、血小板製剤を冷蔵すると何が起こるのかという記事をあげたばかりですが、世界では犬における血小板輸血が少しずつ見直され始めているのかもしれません。
ところで、本文中にも度々出てきますが、血小板輸血には予防的投与と治療的投与という考え方があります。予防的投与とは明らかな出血傾向の見られない場合に行うものであり、一方の治療的投与とは消化管出血など危険性の高い出血に対して行われるものです。当然、治療的投与の方が輸血した血小板は直ちに消費されてしまい、血小板数の増加として定量的に評価しづらくなります。
今回の研究でも、輸血後の血小板数が中央値で5,000/µLしか増えていないのか、、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは輸血対象の多くが治療的投与を行われているから、という背景を把握して頂ければと思います。血小板製剤の作製には少しテクニカルな部分で難しい点もあるのですが、この記事を読んで血小板輸血について関心を持って頂き、明日からの診療に少しでもお役立て頂ければ幸いです。
(担当: 瀬川)
犬における血小板輸血の回顧的研究: 2008-2019年に投与した189件の症例情報ならびに輸血の実際について
著者: Laurence M Saint-Pierre, Kate S Farrell, Kate Hopper, Krystle L Reagan.
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2023 Feb 17. Online ahead of print. PMID: 36799875
目的: 犬の血小板濃厚液(PC)の投与において、症例情報、基礎疾患、臨床経過、投与量、投与目的(治療的あるいは予防的投与)、血小板数の変化、そして副反応について明らかにすることを目的とした。
研究デザイン: 回顧的研究
拠点: カリフォルニア大学デービス校の動物病院
研究対象: PC輸血189件(犬149症例)
実験的介入: なし
結果: 39症例(26.2%)が一次性の免疫介在性血小板減少症、22症例(14.8%)が骨髄での血小板産生能低下、12症例(8.0%)が大量輸血例、3症例(2.0%)が先天性の血小板機能異常症、59症例(39.6%)がそれら以外の原因による血小板減少症、そして14症例(9.4%)は重篤な血小板減少症ではないものの様々な理由に対してPC輸血を行っていた。出血症状に関して、117症例(78.5%)が1ヶ所以上認められており、最も多かったものは消化管内出血の89症例(59.7%)、続いて皮下出血が78症例(52.3%)であった。生存退院率は59.1%であった(88症例)。
一回あたりのPC投与量中央値は、体重10kgあたり0.8単位であった(範囲: 0.2-6.7単位、訳者注: 1単位あたり約60mL)。PC輸血を行った189件のうち、29件(15.7%)は出血症状を伴わない症例に対する予防的投与、158件(83.6%)は出血症状を伴う症例に対する治療的投与であった。99件に関しては輸血前後24時間以内の血小板数が確認できており、血小板増加量の中央値は5,000/µL(範囲: 115,000/µLの低下~158,000/µLの増加)であったが、輸血後の血小板数は輸血前と比較して有意に増加していた(P<0.0001)。また、予防的投与の方が治療的投与に比べると明らかに血小板数が増加していた(P=0.0167)。輸血副反応については、記録が確認できた168件中2件において認められた(1.2%)。
結論: 今回研究対象とした症例適応においては、免疫介在性血小板減少症が最も多く認められた。そして、多くの症例が消化管や皮下などの活動性出血を呈しており、PCの治療的投与が行われていた。概してPC輸血は副作用も少なく、血小板数を増加させる有用な方法と思われた。
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