以前、犬の急性輸血反応と前投薬に関する文献を紹介させて頂きましたが、その文献では様々な血液製剤を投与した935件のうち144件(15%)において急性輸血反応がみられ、高頻度で遭遇するものは発熱が77件(8%)、嘔吐が26件(3%)でした。
今回紹介する文献では以下のAbstractをみて頂くと少し輸血反応発生率が減少しているように思われますが、研究デザインが異なるのでそのまま比較することは難しいかもしれません。また、本文まで読みに行くと赤血球製剤を投与した場合の急性溶血性輸血反応発生率が2.3%と示されてましたが、保存44日目までの赤血球製剤が投与されていたので、非免疫学的な急性溶血性輸血反応もいくらか含まれているように懸念されます。
ところで、本題からは逸れますが赤血球製剤の投与件数878件、血漿製剤537件に対して全血製剤が85件しかなく、成分輸血の普及が目覚ましい様子がみられるなど全体的に実に興味深い内容でした。ぜひ本文とあわせてご覧頂ければと思います。
(担当: 瀬川)
犬の急性輸血反応発生率とリスク因子に関する多施設共同研究
著者: Georgina B F Hall, Rachael Birkbeck, Benjamin M Brainard, Fernanda Camacho, Elizabeth B Davidow, Dana N LeVine, Andrew Mackin, Taylor Moss, Katherine J Nash, Giacomo Stanzani, Daria Starybrat, David Q Stoye, Carolyn Tai, John Thomason, Julie M Walker, K Jane Wardrop, Helen Wilson, Virginie A Wurlod, Karen Humm
掲載誌: J Vet Intern Med. 2024 Sep-Oct;38(5):2495-2506. PMID: 39239720
背景と目的: 輸血反応の発生率は文献により大きく異なっている。そこで、2021年にAVHTM(The Association of Veterinary Hematology and Transfusion Medicine)が定義した輸血反応に関するコンセンサスを用いて犬における輸血反応の正確な発生率を評価し、そのリスク因子を明らかにすることを目的とした。
研究対象: 2022年3月から11月にかけて輸血を実施された犬858頭および血液製剤1,542検体
方法: 北米、イギリス、オーストラリアの二次診療施設において、輸血反応に関する多施設共同の前向き調査を行った。
結果: 急性輸血反応の発生率は、赤血球製剤で8.9%(95%信頼区間: 7.0-11.1)、血漿製剤で4.5%(95%信頼区間: 2.9-6.6)であった。最も多くみられた輸血反応は、赤血球製剤においては発熱性非溶血性輸血反応が4%(95%信頼区間: 2.8-5.5)であり、血漿製剤においてはアレルギー反応が3.2%(95%信頼区間: 1.80-5.10)であった。また、輸血反応のリスク因子については、高単位の赤血球製剤を投与する場合は輸血反応発生率が高い傾向にあった(調整オッズ比1.04、95%信頼区間: 1.00-1.08)。その他にも、28日以上保存していた赤血球製剤を投与する場合、保存14日未満の赤血球製剤を輸血する場合と比較して発熱性非溶血性輸血反応(調整オッズ比4.10、95%信頼区間: 1.58-10.65)や急性溶血性輸血反応(調整オッズ比15.2、95%信頼区間: 3.35-68.70)を多く認めた。なお、白血球除去フィルターの使用に関しては、輸血反応発生率の低減に貢献しているという結果は得られなかった(オッズ比1.47、95%信頼区間: 0.89-2.42)。
結論と臨床的意義: 犬に赤血球製剤を投与する場合、急性輸血反応を警戒する上では製剤作製後の保存期間と投与量について注意するべきである。
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