今回ご紹介する論文は猫の血液型に関するものですが、かなりマニアックな内容となっています。まずは猫の血液型についておさらいしましょう。血液型は通常、赤血球膜上の抗原の種類によって血液型が決定します。猫の場合、赤血球膜上にA抗原があればA型、B抗原があればB型、A抗原とB抗原両方あればAB型となります。しかし今回論文で紹介されている猫の症例は、人間のO型のようにA抗原やB抗原が検出されなかったというのです。
そこでその症例の遺伝子を解析したところ、本来はB型であったところ、遺伝子変異によりB型抗原を発現できなかった可能性が示唆されました。人間においては、そのようにA型やB型の遺伝子を持っていながら抗原が発現せずO型として判定される稀な血液型のことを「ボンベイ型」と言います。したがって、この論文の著者は今回の猫の症例をボンベイ型に似ていると締めくくっていました。
ただし、今回の報告だけでは猫にボンベイ型があるとは断定できず、血液型検査の感度の問題や基礎疾患により抗原がマスクされている可能性など論文の解釈に注意は必要です。ボンベイ型はあまり遭遇することのない稀な血液型ではあるかもしれませんが、後学のためにぜひご参照頂ければ幸いです。
(担当: 中村)
※なお、猫における【ABC血液表現型】の【C】という表記は、AB型のことを指しています。一部の研究グループはそのように表記することがあり、新しい血液型ではありませんのでご注意ください。
猫のABC血液表現型と遺伝子型の不一致
著者: Argyrios Ginoudis, Bertrand Canard, Alexandra Kehl, Urs Giger, Christos Koutinas, Stella Christoforaki, Erasmia Smyroglou, Zoe Polizopoulou, Mathios E Mylonakis
掲載誌: J Vet Intern Med. 2023 Nov 3. doi: 10.1111/jvim.16927. Online ahead of print.
症例: 腎不全と輸血を要する重度な貧血を主訴としたFeLV陽性の雑種猫一例
検査方法: 輸血前検査として免疫クロマトグラフィー法による血液型検査を複数回実施し、そしてゲルカラム法によるクロスマッチ試験を行って抗Aおよび抗B抗体の有無を確認した。
結果: 血液型検査において症例はAまたはB型のいずれとも判定されず、クロスマッチ試験の主試験においてA型およびB型ドナー猫の赤血球を凝集させた。一方、副試験において症例の赤血球はA型ドナー猫1頭、B型ドナー猫2頭と適合したが、別のA型ドナー猫とは不適合であった。そこで遺伝子を解析したところ、本来B型となるはずのCMAH遺伝子にホモ接合型の変異(c.179G>T)が認められた。
結論: 本症例はB型であるもののB型抗原の発現が弱い可能性、あるいは人間におけるボンベイ型のようにABC抗原がいずれも欠損している可能性が示唆された。
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