新年あけましておめでとうございます。今回からしばらくの間は、第5回学術講習会で紹介させて頂いた文献のAbstractを、こちらでも取り上げてみたいと思います。
猫の血液型と言うと、A/Bシステムに基づいた血液型が最も普及していて、その次に有名と思われるものはMikが挙げられます。残念ながらMikは既に試薬が枯渇してしまい、これ以上話題に挙がることは難しいようですが、本論文では5種類の猫の新しい血液型の可能性について言及しています。それらの血液型が溶血性輸血反応を起こすのかなど、臨床的にどう影響してくるのかという点は続報に委ねられていますが、知識のアップデートに必読の一報です。輸血歴のないA型同士の猫でも、なぜ初回からクロスマッチが不適合になることがあるのか、そんな疑問をお持ちの方は是非ご覧下さい。
(担当: 瀬川、久末)
自然抗体に基づく猫の5種類の新たな赤血球抗原の同定
掲載誌: J Vet Intern Med. 2021 Jan;35(1):234-244. PMID: 33336860.
背景: Mik抗原が発見されて以降、A/Bシステム以外の血液型不適合に関する報告が複数認められている。
目的: A/B不適合ではない自然抗体による血液型不適合の発生率を調査し、それらに基づいて猫の赤血球抗原(FEA)を明らかにすることを目的とした。
供試動物: A型の猫258頭を対象とした。
方法: 全て前向き研究として実施した。まず、A型の猫4-6頭をひとグループとしてクロスマッチを行い、自然抗体の有無を調査した。そして、自然抗体を有する猫に関しては、その血漿を試薬として用いて、以降に提供された全ての猫の赤血球とクロスマッチを行い、該当するFEAの保有率を評価した。また、そうして得られた複数のFEAが同一のものでないかどうかも確認した。
結果: A型の猫同士においてランダムに合計1228回クロスマッチを行い、クロスマッチ不適合を48検体(3.9%)認めた。また、少なくとも7%(18頭/258頭)のA型猫は自然抗体を有することが明らかとなった。自然抗体を有する18頭のうち、充分量の血漿を確保できた猫は7頭であり、データ解析の結果、そのうちの3頭の自然抗体は同一のFEAに反応することが推測された。したがって、最終的に5種類の新規FEAを特定したこととなり、A型の猫のFEA1-5抗原保有率は84-96%と比較的高頻度であった。一方、FEA1陽性の猫216頭のうち11頭(5.1%)が何かしらの自然抗体陽性であったのに対し、FEA1陰性の猫は42頭のうち7頭(16.7%)と高頻度に自然抗体が検出されたため、注意が必要と思われた。
結論と臨床的意義: A/Bシステム以外の新規FEAを同定する第一歩を踏み出すことができた。なお、FEA1はその抗原の発現頻度などを考慮すると、実はMikに相当している可能性があるかもしれない。
Fig3一部解説. 本研究ではクロスマッチの判定にゲルカラム法を用いています。陽性(+)だと遠心後でも赤血球凝集塊がゲルカラム上部に残り、陰性(-)だと赤血球が下部に沈殿しています。
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