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猫の輸血に用いる輸液ポンプ

更新日:8月17日

動物病院ではしばしば輸液ポンプをお使いのことと思いますが、その輸液ポンプが「輸血」に適しているものか考えられたことはありますでしょうか?通常の輸液ポンプの送液システムはペリスタルティック方式と言って、輸液セットのチューブを複数の丸棒が送液方向へ波動状に蠕動運動しながら、チューブを完全閉塞させるかたちで押し出す方法が採用されています。これらの輸液ポンプは必ずしも輸血時の使用を考慮せずに販売されているため、チューブが完全閉塞される際に赤血球の機械的溶血を引き起こす危険性が指摘されています。

一方、たとえばテルモ株式会社の販売している輸液ポンプは、ミッドプレス方式と言って、チューブを完全には押しつぶさない方式を一部機種で採用しているため、赤血球の機械的溶血を軽減できる可能性が示唆されています。これらの送液システムが実際にどの程度、臨床的意義のある赤血球の溶血を引き起こすのか、今回はその点に注目した論文の紹介です。

日本ではみかけない機種を使用した報告であり、意外にもペリスタルティック方式の輸液ポンプがそれほど猫の赤血球に悪影響を及ぼすことはなかったという結論ではありましたが、普段何気なく使用している輸液ポンプの送液システムについて考えを深める良い機会としてお読み頂ければ幸いです。

(担当: 瀬川)


Quantitative assessment of infusion pump-mediated haemolysis in feline packed red blood cell transfusions

猫の赤血球濃厚液輸血において輸液ポンプが引き起こす機械的溶血の定量評価


著者: Carles Blasi-Brugué, Ignacio M Sanchez, Rui Rf Ferreira, Augusto Jf de Matos, Rafael Ruiz de Gopegui.


掲載誌: J Feline Med Surg. 2021 Dec;23(12):1149-1154. PMID: 33719675


目的: 人と犬の赤血球濃厚液において、ペリスタルティック方式の輸液ポンプにより赤血球の溶血が引き起こされることが指摘されている。そこで本研究の目的は、二種類のペリスタルティック方式の輸液ポンプが長期保存した猫の赤血球濃厚液に対して溶血を起こすか調査することとした。


方法: 赤血球保存用添加液にSAGM(アデニン、デキストロース、マンニトール、塩化ナトリウム)を用いた猫の赤血球濃厚液を作製し、冷蔵で35-42日間保存した。その後、径180μmのフィルターつきの輸血セットを用いて、まずは自然滴下(8滴/分)により1.3mLのサンプルを回収した。次に「NIKI V4」という機種の輸液ポンプを用いて25mL/hの速度で送液して1.3mLのサンプルを、最後に「Infusomat FmS」という機種の輸液ポンプを用いて同様に1.3mLのサンプルを得た。そしてそれぞれのサンプルを用いて、ヘマトクリット管によるPCV測定、ヘモグロビン濃度の測定、分光光度計による遠心上清の遊離ヘモグロビンの測定、溶血度の評価を行い、フリードマン検定により統計解析を実施した。


結果: 猫の赤血球濃厚液を15検体評価したところ、溶血の度合いは自然滴下群が1.12%、NIKI V4群が1.13%、Infusomat FmS群が1.14%であり、それぞれに有意な差は認められなかった。


結論: スペインとポルトガルの動物病院で一般的に使用されている二種類の輸液ポンプを用いて25mL/hで滴下した場合、自然滴下と比較して猫の赤血球濃厚液を明らかに溶血させることはなかった。



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