犬や猫における献血を成功に導くために、まずはご家族の献血に対する認知度を高める必要があることは以前のJournal clubで紹介させて頂きました。今回は同じ研究グループが、ドナーの継続性に関して何が障壁となっているのかを解析した報告です。
以下に示したAbstractの中では大まかな分類でしか示されていないのですが、ドナー登録や継続がうまくいかない理由として「疾病によるもの」は肝疾患、心疾患、慢性腎臓病、アトピー性皮膚炎が多く、「動物のキャラクターによるもの」は犬で興奮、猫では攻撃性が多かったようです。また、「ご家族の事情によるもの」には転居や音信不通が多いものの、一時的な体調不良のはずがそのままドナーとして戻ってこなかったケースも多かったようです。
疾病によるドナー登録や継続断念は致し方ないものですが、動物のキャラクターによっては馴化によって献血できるようになることもあったり、ご家族の転居など地理的な障壁に関してはシステム上の対策で対応可能になる可能性もあることを筆者たちは指摘しています。フリーアクセスで本文も読むことが出来ますので、ぜひご一読ください。
(担当: 瀬川)
コホート研究からみえた犬と猫のドナーが献血しない理由
著者: Marjanne Descamps, Karen Humm
掲載誌: Vet Rec. 2023 Jul 22;193(2):e2993. PMID: 37183182
背景: 医学においては献血ドナーの選定ならびに継続性に関する詳細な研究がなされているが、獣医療においてそのような研究は非常に限られている。そこで本研究の目的は、犬と猫のドナー登録ができない理由や継続を断念する理由を分析することとした。
方法: 2014-2019年の間に新規にドナー登録あるいは献血を実施した犬および猫に関するデータを研究対象とした。ドナー登録時に断らざるを得ない理由を「疾病によるもの」と「動物のキャラクターによるもの」に分類し、年齢以外のドナー継続断念に関する理由はさらに「ご家族の事情によるもの」も含めて調査した。
結果: 犬362頭、猫134頭のデータを評価したところ、ドナー登録時に猫は20.8%、犬は5.2%が主に疾病による事情で断らざるを得なかった。ドナー継続を断念する理由としては、犬猫共に動物のキャラクターによるものが多かったが、ご家族の事情によるものと疾病によるものも比較的多く認められた。
研究の制約事項: 動物のキャラクターは各担当者の主観的評価に基づくものであることから、実際にドナーとして不適当であったかどうか定かではない点に注意が必要である。
結論: 動物のキャラクターや疾病による献血困難はしばしば遭遇するため、献血ドナーを呼びかける上では一定数がドナーとして不適当となってしまうことを十分理解しておく必要がある。また、献血に対するご家族の理解とモチベーションの維持はドナープログラムを運営していく上で必須であり、ドナーリクルートのコストを抑える点においても重要と思われる。
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