赤血球濃厚液を作製後、直ちに使用しない場合は冷蔵庫に保管します。その冷蔵庫はできれば血液製剤専用のものであることが望ましく、温度管理を厳密にするためにはなるべく限られたスタッフのみがドアの開閉を最小限で行って血液製剤の管理を担うべきとされています。今回紹介する論文は、そのような赤血球濃厚液の保存方法の細かいところに着目した研究です。
日頃、当院では赤血球濃厚液が入った血液バッグを水平に寝かせて置き、1日に1回優しく混和するようにして保存しておりましたが、今回の論文を受けてどのように保存するのが最善か、今一度院内でも議論してみたいと思いました。皆さまもぜひご一読ください。
(担当: 石田)
保存中の血液バッグの静置方法と混和頻度の影響
著者: Samantha M Aumann, Miryam M Reems
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2022 Mar;32(2):181-188. PMID: 34962340
目的: 赤血球濃厚液を保存する際、溶血は時間経過とともに認められる保存障害の指標とされている。保存期間中、赤血球濃厚液を間欠的に混和することは保存液による赤血球保護作用の促進が期待される反面、人為的に溶血を引き起こす可能性も懸念される。また、血液バッグの静置方法は赤血球濃厚液の品質に影響を与えることが示唆されている。そこで本研究では、28日間の保存期間中、犬赤血球濃厚液の混和頻度と血液バッグの静置方法がどの程度保存障害を引き起こすのか、溶血の程度を用いて評価することを目的とした。
実験デザイン: in vitroにおける前向き研究
研究施設: 院内に血液バンクを有する民間の二次診療動物病院
供試動物: 献血プログラムに賛同して頂いた健康な犬32頭
実験介入: なし
実験方法: 犬赤血球濃厚液40バッグを4つのサテライトバッグに分割し、合計160検体を用いて様々な静置方法と混和頻度で保存した。具体的には、①血液バッグを直立させて1日1回混和、②血液バッグを直立させて週1回混和、③血液バッグを水平に寝かせて1日1回混和、④血液バッグを水平に寝かせて週1回混和という4条件で28日間保存した。そして、0、7、14、28日目に血液バッグから一部を採取して溶血率を分析した。
主要な結果: 全てのグループにおいて、0-14日目まで総ヘモグロビン濃度、遊離血漿ヘモグロビン濃度、PCVなどいずれの溶血指標にも違いはみられなかった。しかしながら、28日目のみ、②の直立で週1回混和と④の水平置きで週1回混和の犬赤血球濃厚液は、③の水平置きで毎日混和した血液と比較して溶血率と遊離血漿ヘモグロビン濃度が有意に低かった。
結論: 0-14日目までの犬赤血球濃厚液ではどのグループでも溶血の程度に相違は認められず、28日目に一部で有意差を認めた。しかしながら、本研究だけでは犬赤血球濃厚液を保存する際の最善な静置方法や混和頻度の確立にまでは至らないと考えている。
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