日本赤十字社では、体重が50kg以上ある方は全血400mLの献血をお願いされますので、体重1kgあたり最大8mL程度の採血量となります。一方、犬の場合、文献にもよりますが最大採血量は20mL/kg程度と人間より遥かに多く、献血に協力して下さるご家族の方々が驚かれることも少なくありません。
今回紹介する論文は、その輸血用採血量の安全性を直接評価しているものではありませんが、大変参考になる論文です。ご紹介するAbstractだけでは全貌をお伝えすることは出来ませんが、本文もあわせてみる限り、全血液量の20%(18mL/kg)の採血量ではそれほど臨床的に意義のある変化はみられないように感じられましたが、40%(36mL/kg)の採血量では血圧および血小板凝集能の深刻な低下が認められています。
当研究会の指針にもあるように、ドナーになってもらえる犬は25kg以上あれば勿論喜ばしいことですが、そうでない場合、このような論文を根拠に、安全な最大採血量を各施設で検討されてみてはいかがでしょうか。
(担当: 瀬川、呰上)
犬の急性出血モデルにおける止血機能の変化
著者: Alex M Lynch, Armelle M deLaforcade, Dawn Meola, Andre Shih, Carsten Bandt, Natalia Henao Guerrero, Carolina Riccó.
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2016 May;26(3):333-343. PMID: 26890726.
目的: 犬の急性出血モデルにおける止血機能の変化を、血小板数、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)など従来から用いられている止血系検査や、トロンボエラストグラフィ(TEG)、血小板凝集能検査を用いて評価すること。
研究デザイン: 前向き研究
施設: 研究所内
供試動物: 5頭のビーグル犬
介入: 全身麻酔をかけた後、ベースラインのPCV、血清総蛋白(TP)、動脈血液ガス分析、血小板数、PT、APTT、TEG、フィブリノゲン濃度、血小板凝集能を検査する目的で採血した。その後、全血液量の20%および40%瀉血した後、平均動脈血圧で40±5mmHgの低血圧状態を60分間維持した後、そして瀉血した血液を戻し輸血した後の計4点において同様の検査目的で採血した。
方法と主要な結果: 時間経過と共にPCV(P=0.048)、TP(P<0.0001)、動脈血圧(P<0.0001)に有意な減少が認められた。急性出血後の血小板数に有意な変動はみられなかったが(P=0.879)、アラキドン酸(P=0.004)やADP(P=0.008)を刺激物質として用いた血小板凝集能は低下していた。TEGに関しても、急性出血後にわずかではあるが明らかな変動を示唆する結果が得られた(凝固時間:R; P=0.030、最大振幅:MA; P=0.043、凝固強度:G; P=0.037)。また、PT(P<0.0001)、APTT(P=0.041)の延長、フィブリノゲン濃度(P=0.002)の減少も認められた。
結語: 犬の急性出血モデルにおいて、血小板数の変動がみられないにもかかわらず、血小板の機能低下が確認された。また、APTT、フィブリノゲン濃度、MAにおいても、出血に伴い有意な変化が認められた。今後、急性出血を呈する症例犬において、血小板機能が評価されることを期待したい。
Comentários