前回に引き続き、今回も輸血について直接研究した論文ではありませんが、輸血適応について考えることをテーマとして犬の免疫介在性血小板減少症(ITP)に関する論文を取り上げたいと思います。この2024年5月にACVIMからITPの診断に関するコンセンサスが発表されましたのでITPは現在とても話題性の高い疾患です。
今回紹介する論文の中で、一次性ITPの血小板数は中央値5,500/µL(範囲0-26,000/µL)と勿論低値ではあるのですが、その値で血小板輸血が適応とされていることは少なく、やはり貧血に対する赤血球製剤の輸血が主体となっているようです。ちなみに一次性ITP58頭のうち輸血を行った症例が23頭(40%)、そのうち赤血球製剤の輸血例が13頭と約6割であるのに対し、明らかに血小板の補充のみを目的とした輸血はわずかに1頭でした。
これは獣医療における血小板製剤の供給不足という背景も考慮する必要はありますが、ITP治療に関するACVIMコンセンサスの続報を待つ間、今回紹介させて頂いた論文を通じてITPと輸血適応について再考されてみてはいかがでしょうか。
(担当: 瀬川)
犬の一次性ITPにおける診断および予後因子の研究
著者: Marjory B Brooks, Robert Goggs, Amelia H Frye, Jessica Armato, Marnin Forman, Julia Hertl, Michael Koch, John P Loftus, John Lucy, Brandi Mattison, Julia Merriam, Sarah Shropshire, Laura Van Vertloo, Austin Viall, Dana N LeVine.
掲載誌: J Vet Intern Med. 2024 Mar-Apr;38(2):1022-1034. PMID: 38205735
背景: 犬の一次性ITPの診断は困難であり、重症度に関する情報が十分揃っているとは言い難い。
目的: 一次性と二次性ITPを鑑別する臨床病理学的特徴を明らかとし、出血兆候の重症度や輸血適応、予後因子について検討すること。
症例: 血小板減少症の犬98頭(一次性ITP58頭、二次性ITP40頭)
方法: 多施設共同の前向き研究にて血小板数5万/µL未満のITP症例犬を研究対象とし、7日間以上の治療経過が把握できるものを集計した。出血兆候の重症度はDOGiBATスコア(紫斑、血便、血尿の有無などを点数化したもの)により評価し、その他にCBC、生化学、CRP、凝固線溶系パネル、血小板表面IgG、血小板表面マーカーを検査した。なお、基礎疾患が認められたものは二次性ITPと定義した。
結果: 残念ながら一次性ITPの確定診断に至る前向きな検査項目はみられなかったが、一次性ITPは二次性ITPと比較して血小板数、Dダイマー、血小板表面マーカーの発現率が低い傾向にあった。また、多変量解析により雌雄、凝固線溶系パネル検査、血小板数、Dダイマー、血小板表面IgGの発現率が一次性と二次性ITPを鑑別する上で有用であることが示唆された。一次性ITPの重症度に関して、血小板数が低値であることとBUNが高値であることが死亡率と相関していた。一方、輸血適応に関しては、血小板数やDOGiBATスコアに応じて輸血が必要とされることは少なく、ヘマトクリットが低値である場合に輸血が実施されていた。
結論: 追試は必要であるが、今回得られた多変量解析に基づく結果は一次性と二次性ITPを鑑別し、一次性ITPの重症例を見落とさないという点において有用である。
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