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輸血適応疾患の検討: 犬の肝臓腫瘍

犬の肝臓の孤立性腫瘍の多くは肝細胞癌あるいは肝細胞腺腫であり、手術により予後の改善が期待されます。しかしながら、右肝区域あるいは中央肝区域に発生した腫瘍の場合、後大静脈が近接していることや肝静脈が肝実質に覆われていて目視できないことから出血リスクが高くなることは皆様ご存じのことと思われます。そこで筆者たちは切除困難な肝臓腫瘍症例に対し、腹部正中切開に加えて胸骨の尾側縦切開および横隔膜切開を行うことで予後や合併症の発生頻度がどのように改善されるのかを調査しています。

当論文紹介としては、そのデータの一部である輸血適応について着目しておりますが、22頭中12頭で術中出血に対して輸血を行ったとあります。本文をみてみると術中出血量の中央値は循環血液量の16.25%(13.8mL/kg)であり、症例の体重中央値が21.8kgだったことを加味すると出血量は300mL程度ということになり、確かに輸血を考慮したくなる状況です。一方、10%(8.5mL/kg)以上の出血量でも輸血を行わずに乗り越えられた症例が4頭、そもそも出血量が10%未満で輸血を考慮しなかった症例が2頭いたということなので、輸血適応は各症例のコンディションや手術手技に左右されることも窺えます。

ハイリスクな肝臓腫瘍の手術を検討する場合は手術前の輸血用血液の準備が必須ですが、ぜひ当論文を参考として必要な血液量を推測されてみてはいかがでしょうか。

(担当: 瀬川)


肝葉切除時に腹部正中切開に加えて胸骨尾側縦切開および横隔膜切開を適応した22症例の経過


著者: Sarah J Leber, James D Crowley, Vaughan W Moore, Tristram C Bennett, Andrew M Marchevsky.


掲載誌: Vet Rec. 2025 Mar 20:e5271. Online ahead of print. PMID: 40113737


背景: 肝葉切除を行う際、胸骨尾側縦切開および横隔膜切開を加えることで肝門部の露出が容易になると言われている。そこで本研究の目的は、そのような手術手技が肝臓腫瘍の犬の予後にどのような影響を及ぼすか調査することとした。


方法: 胸骨尾側縦切開および横隔膜切開を加えて肝葉切除した犬の症例データを2010-2023年の期間で回顧的に調査した。調査対象は症例情報、術前検査所見、どの肝区域の肝葉切除であったか、合併症、病理検査結果、予後とした。そのうち中央生存期間と合併症については各肝区域で差がみられるか比較検討を行った。


結果: 22頭が症例として組み入れされることとなり、中央肝区域が12頭、右肝区域が9頭、左肝区域が1頭であった。肝門部の血管の可視化には指を用いて肝実質を破砕するfinger fracture法を21頭で用いていた。輸血が必要な術中出血は12頭でみられ、そのうち1頭は術中死となった。21頭が退院し、周術期の合併症に関しては特別治療の必要が無いものも含めた軽度の症例が14頭、輸血や再手術が必要な重度の症例が7頭、死亡症例は1頭であった。全体の中央生存期間は562日であり、合併症の発生率や中央生存期間は中央肝区域と右肝区域の症例で有意な差はみられなかった。


研究の限界: 回顧的研究という性質上、治療のプロトコルや術後ケアが統一されていないことに注意が必要である。


結論: 本手術手技は多くの症例に対して良好な結果をもたらした。したがって、術中出血と周術期の合併症には警戒が必要であるものの、その多くは対処可能であることから、切除困難な肝臓腫瘍に対し腹部正中切開に加えて胸骨尾側縦切開および横隔膜切開を行うことは充分に推奨できるものと思われた。




 
 
 

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