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貯血式による自己血輸血

更新日:2023年8月17日

昨年末、こちらの記事で、回収式による自己血輸血に関する文献の紹介をさせて頂きました。回収式自己血輸血は、回収時に混入した細菌、肺塞栓の原因となり得る脂肪球、あるいは腎機能障害を引き起こす遊離ヘモグロビンなどのデメリットが懸念される為、適応には慎重な判断が求められます。また、本来、回収式の自己血輸血は腫瘍播種リスクが懸念される為、腫瘍性疾患の場合には適応し難いものです。

一方、その他の自己血輸血の選択肢として、今回取り上げられている、術前貯血式の自己血輸血が挙げられます。こちらは輸血採血時の細菌混入リスクは同様に想定されるものの、脂肪球や遊離ヘモグロビン、腫瘍播種などのデメリットは基本的にありません。勿論、自己血なので、血液型不適合や輸血感染症などの同種血輸血における問題を懸念する必要もなく、ドナー確保に苦しむ獣医療において、貯血式自己血輸血は有望な選択肢となるかもしれません。

緊急ではなく、待機的な外科手術の場合に限定されますが、本稿を通じて貯血式自己血輸血について、一度情報を整理されてみてはいかがでしょうか?

(担当: 瀬川、呰上)


出血リスクを伴う待機的な腫瘍外科手術を行う犬に対する貯血式自己血輸血


著者: Surabhi Sharma, Sarah E Boston, Jerzy Kotlowski, Matthew Boylan.


掲載誌: Vet Surg. 2021 Apr;50(3):607-614. PMID: 33634898.


目的: 術中に出血リスクを伴う待機的な腫瘍外科手術を行う犬に対する、貯血式自己血輸血の有用性を評価すること


研究デザイン: 前向き研究


供試動物: 犬12頭


方法: 出血リスクが高いと想定される腫瘍外科手術を控えた犬を対象とし、手術日6日以上前に輸血用に採血を行って、新鮮凍結血漿ならびに濃厚赤血球液へ分離して保存した。そして、手術開始時点で新鮮凍結血漿を輸血開始し、術中に出血が確認された時点で濃厚赤血球液を輸血した。有効性の評価方法として、輸血用採血時、手術前、手術直後、輸血24時間後に平均PCV/総蛋白濃度を測定し、その他に発熱、血圧低下、心拍数増加や低下、粘膜蒼白、毛細血管再充填時間、呼吸数の増加や呼吸困難など輸血副反応の有無を調査した。


結果: 下顎骨切除、上顎骨切除、胸壁切除、肝葉切除手術症例を本研究の対象とした。12頭中の10頭が、術中に出血所見がみられた時点で自己血輸血を開始した。輸血用の採血により、2頭が医原性に貧血を呈していた(PCV30%、31%)。平均PCV/総蛋白濃度は、輸血用採血時が45.1%/7.1 g/dL、手術前が42.2%/6.73 g/dL、手術直後が33.2%/5.42 g/dL、輸血24時間後が36.5%/5.65 g/dLであった。なお、輸血による合併症は一例もみられなかった。


結論: 12頭中10頭で貯血式の自己血輸血を特に支障なく実施することが可能であった。


臨床的意義: 出血リスクが高い待機的外科手術を控えた犬に対して、貯血式自己血輸血は有用性の高い選択肢になり得ると思われた。

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医療の分野でも軽度の貧血のある腫瘍症例では内科的治療を行い貧血を改善してから手術を行う方向にシフトしています。トータルで貧血に関する管理が考えられるようになりました。

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