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クロスマッチはEDTA血漿?

jsvtm2018

更新日:2023年8月17日

クロスマッチ検査には血漿あるいは血清が必要です。皆さまは血漿と血清、どちらをお使いでしょうか?まず、動物病院での院内検査としてはヘパリンで抗凝固処理した血漿を用いる場面が多いですが、ヘパリンは血小板凝集を防ぐことが出来ないので、遠心沈査の血球側をクロスマッチに使用することはできません。その点、EDTAで抗凝固処理した血液であれば、血球、血漿いずれも検査に使用できるので、特に貧血動物からの採血量も少なく済んで効率的です。また、EDTA血漿はクロスマッチの検出感度が血清より高い可能性も人間の方で示唆されているようです。

では、血清を用いるメリットはどうでしょうか?採血量が多くなるというデメリットは考えやすいですが、実は血清を用いるメリットも存在します。それは、血清の場合は補体の活性化を阻害しないので、補体を介する溶血反応をクロスマッチで検出可能となることが考えられています。

そこで今回紹介する論文は、EDTA血漿と血清、どちらが犬のクロスマッチに適しているのかを調査した報告です。主題そのものも興味深いものですが、クロスマッチの陽性反応を実験的に作成するため、ウサギ抗イヌ赤血球抗体を用いる実験手法にも驚かされました。しかも、ウサギ抗体にIgGを用いているので、通常の生食法によるクロスマッチでは検出が困難であり、クームス血清などを用いて専門的に研究されています。

残念ながら血清を用いても溶血反応はみられず、血清の優位性が感じられなかったようですが、ぜひ本文もご覧頂きたい一報です。

(担当: 瀬川)


犬のクロスマッチの主試験における血清とEDTA血漿の比較



掲載誌: Vet Clin Pathol. 2021 Sep;50(3):319-326. PMID: 34486139


背景: 獣医療におけるクロスマッチのプロトコルは各施設により様々であり、特に血清と血漿のどちらを使用するべきかに関しては定まった見解が無い。血清の代わりに血漿を用いた場合に結果が異なる可能性は示唆されているものの、実際にその点を検討した研究報告においていまだに結論は出ていない。


目的: そこで、試験管凝集法による犬のクロスマッチの主試験において、血清あるいはEDTA血漿を用いた場合に凝集の頻度や程度に違いがみられるのかを評価することを目的とした。


方法: 100頭の犬から血清およびEDTA血漿を分離してそれらを「レシピエント」とし、一方、1頭の健康な犬の赤血球を「ドナー」と設定してクロスマッチを行った。クロスマッチで凝集反応を実験的に作成するためにウサギ抗イヌ赤血球抗体を使用し、抗体濃度を調整することで強陽性、弱陽性、陰性の結果が得られるようにした。また、クロスマッチは混和直後の判定、冷蔵後の判定、加温後の判定、ウシ血清アルブミン添加後の判定、クームス血清添加後の判定など、様々な条件で実施した。


結果: 混和直後の判定、冷蔵後の判定、加温後の判定、ウシ血清アルブミン添加後の判定において、血清よりもEDTA血漿の方が明らかに強く凝集反応が検出された(P<0.001)。一方でクームス血清添加後の判定においては、両者の凝集反応に有意な差はみられなかった(P=0.313)。


結論: 凝集反応は血清においても充分許容できる範囲で検出できたが、EDTA血漿の方が弱い凝集反応をより明確に検出可能であることが示唆された。したがって、クロスマッチ検査のための採血量が少なくなることからも、血清よりEDTA血漿の方が好ましいと考えられた。

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