犬にもTRALI?
- jsvtm2018
- 6月23日
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輸血6時間以内の急性呼吸困難に関連する副反応として、輸血関連循環過負荷(TACO: タコ)と輸血関連急性肺障害(TRALI: トラリ)が最も有名と思われます。それぞれTACOは心原性肺水腫、TRALIは非心原性肺水腫が病態の中心ですが、TRALIは獣医学領域で報告がほとんど無く、実態が定かではありません。
医学においては、血液製剤に含まれる抗白血球抗体や生理活性物質が患者の白血球を活性化して肺の毛細血管内皮細胞を障害し、肺水腫を呈する可能性が示唆されています。血漿を多く含む製剤や経産婦女性由来の血液製剤で多くみられることが明らかになっているとはいえ、近年では0.1%未満の発症頻度のようなので頻繁にみられる副反応ではない印象です。
今回紹介する論文では、輸血数時間以内に呼吸困難を呈した犬が非心原性肺水腫を呈しており、類似疾患である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)につながるその他の基礎疾患がみられなかったこと、そして数日で速やかに病態が改善したことからTRALIが疑わしいとしています。抗白血球抗体の存在や肺の毛細血管障害が証明できれば尚よかったように思われますが、貴重な症例報告です。本文はフリーテキストとなっておりますので是非ご覧ください。
(担当: 瀬川)
輸血関連急性肺障害と一過性に肺高血圧症を呈した犬の一例
著者: S Pagnamenta, C Müller, S Meunier, M Dennler, T M Glaus
掲載誌: Schweiz Arch Tierheilkd. 2025 Jun;167(6):352-360.
要旨: 輸血療法は貧血動物に対して重要な支持治療のひとつであるが、仮に血液型判定やクロスマッチ試験が適合であったとしても完全に副作用のない血液製剤というものは存在しない。つまり様々な副反応が想定される治療法であり、重篤な症例ほど輸血の危険性は増す恐れがある。特に輸血療法によって合併症をきたしやすい臓器として呼吸器があり、輸血関連急性肺障害(TRALI)が代表例として挙げられる。
今回、赤血球濃厚液を輸血後、数時間以内に非心原性肺水腫を生じた犬の一例と遭遇し、その原因としてTRALIが最も疑わしかったので詳細を報告する。当症例は一時的に肺高血圧症も合併していたが、幸いにして数日の支持治療に反応が得られ、臨床上、画像診断上も寛解が得られている。
TRALIは獣医学領域では稀な病態であるが、重要な輸血反応のひとつとして理解しておく必要がある。
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