top of page

犬の献血頻度と鉄欠乏

献血の頻度と鉄欠乏の関係性は特に医学においてよく調べられているようですが、犬に関してはあまり研究が進んでいません。たとえば犬の以前の研究において、1-2週間に1度、総血液量の15-20%の献血では貧血が生じなかったとか、毎週、総血液量の10%の献血量では鉄分は徐々に失われるものの貧血を呈することは無かった、ということが示唆されているようです。ただ、それが一般的な献血プログラムとは異なる献血間隔であることから、実際のところどの程度の献血が鉄代謝に影響を及ぼすかは定かでありません。

そこで本研究においては、実際の献血プログラムに参加しているドナー犬の鉄欠乏の状態を評価することにしています。結果は以下の通りですが、特に鉄剤を追加投与することなく総合栄養食を食べているだけで、12ヶ月間で6回程度の献血では問題視するような鉄欠乏に至らないことが明らかとなっています。

筆者たちの献血プログラムにおいて最短の献血間隔は28日間としているようですが、本研究を参考に、各施設ごとの献血頻度について再考されてみてはいかがでしょうか。

(担当: 瀬川)


献血頻度による血清鉄関連パラメーターおよび血液検査所見への影響


著者: Kristina K Maier-Millar, Kate S Farrell, Steven E Epstein


掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2025 Jul 29:e70005. Online ahead of print. PMID: 40729457


目的: 初めて献血するドナー犬および過去12ヶ月間で6回以上献血しているドナー犬の血清鉄関連のパラメーターや血液検査所見を比較すること


研究デザイン: 前向き観察研究


研究拠点: カリフォルニア大学デービス校附属動物病院


供試動物: 2022年1月~2023年3月の間に一般家庭で飼育されている犬61頭に献血ドナープログラムに参加してもらい、初回ドナーおよび過去12ヶ月間で6回以上の献血を経験している頻回ドナーに分類した。


データ収集: 血清鉄関連パラメーター、CBC、網状赤血球数の測定のために採血を行った。


主要な結果: 頻回ドナーと初回ドナーで有意差がみられたパラメーターは、MCHCのみだった(頻回ドナー: 平均値33.8±0.8g/dL、初回ドナー: 平均値34.4±0.8; P=0.01)。頻回ドナーのうち2頭は血清フェリチン濃度が基準範囲より低値を示しており(それぞれ54、66ng/mL、基準範囲: 89-489ng/mL)、そのうちの1頭は頻回ドナーの中でも最大量献血を行っている犬であった(生涯献血量 609mL/kg)。しかしながら、その2頭のどちらもCBCなど血液検査所見に異常はなく、全体としては血清フェリチン濃度に2群間で有意差はみられなかった(頻回ドナー: 中央値270ng/mL[範囲54-572ng/mL]、初回ドナー: 中央値298ng/mL[範囲130-954ng/mL]; P=0.07)。頻回ドナーの方で血清フェリチン濃度が低い犬は2頭いたが、頻回ドナーの方が頭数が多いせいか、2群間で血清フェリチン濃度低値の遭遇頻度に違いがある訳ではなかった(頻回ドナー41頭中の2頭[5%]、初回ドナー20頭中の0頭[0%]; P=0.32)。


結論: 頻回ドナーが初回ドナーと比較して明らかに鉄欠乏や小赤血球症、貧血を呈している所見は幸いみられなかった。しかしながら、献血ドナー犬が鉄欠乏に陥ることが一般的ではないにしても、血液バンクの管理者はドナーが定期的に献血することで鉄欠乏状態にならないか警戒しておく必要があるのは言うまでもない。

 
 
 

最新記事

すべて表示
犬の献血バスの運用

今回紹介する論文は犬の献血バスの運用に関するもので、韓国の建国大学がヒュンダイ社のソラティという15人乗りくらいのサイズの車両をベースに犬用の献血バスを作製しています。トヨタ社のハイエースより一回り大きい全長約6mの車両のようなので、献血件数を重視する場合は手狭であったようですが、献血バスの導入としては必要十分であったように筆者たちも述べています。今後、日本においても犬の献血バスが稼働するようにな

 
 
 
輸血と感染症2

以前、 イタリアの動物用血液バンクでの節足動物媒介性の病原体保有率に関する報告 を紹介しましたが、今回は同時期に発表されていたカナダの血液バンクでの報告となります。犬において バベシア や ヘモプラズマ が輸血によって感染した報告がありますので、感染症のスクリーニング検査をどこまで、あるいはどの頻度で行っていくのかは議論の尽きないところです。 手前味噌ではありますが、きたる2026年5月24日の日

 
 
 
赤血球の保存温度と時間

全血や赤血球製剤を保存する場合は冷蔵保存が原則とされており、保存されていた血液を使用する場合、細菌増殖リスクを懸念して4時間以内に終わらせる「4時間ルール」があることは以前 別の記事 で紹介させていただきました。しかしその記事において研究対象とされていたのは血漿製剤であり、室温で12時間かけての投与に不都合はなかったとしていますが、全血や赤血球製剤は細菌増殖だけでなく溶血リスクのことも考慮しなけれ

 
 
 

コメント


日本獣医輸血研究会 事務局

〒272-0141千葉県市川市香取1丁目4番10号 株式会社wizoo内

TEL: 047-314-8377

Mail: info@jsvtm.org

bottom of page