点滴、抗がん剤投与、輸血など、留置針は日常診療において欠かせない道具でありますが、留置針の径は日頃どのように選択されていますか?日本は小型犬が多いので24ゲージなど細い留置針を選択する場面が多いように思いますが、今回ご紹介する論文は留置針の径と輸血速度が輸血用赤血球の溶血に及ぼす影響について調査したものです。
結論として、輸血速度はどれだけ早くしても溶血の有意な悪化はみられなかったようですが、留置針の径は大いに影響を及ぼしたとあります。具体的には、たとえばベースラインで72%あった濃厚赤血球液のヘマトクリットが、16ゲージの留置針を通すと68%、24ゲージの留置針を通すと50%まで減少したそうです。
比較的長期間保存している濃厚赤血球液であるため溶血しやすいセッティングではあること、そして上清の遊離ヘモグロビンを測定して溶血の程度を正確に評価したわけではないことなど、本研究を解釈する上で注意すべき点はあります。しかしながら、日頃何気なく選択している留置針の径について、輸血の際には再考する必要があるかもしれません。本文もぜひご覧下さい。
(担当: 瀬川)
輸血速度と留置針の径が犬の濃厚赤血球液の溶血に及ぼす影響
著者: Luis F Perez, Brett Darrow.
掲載誌: J Am Vet Med Assoc. 2023 Jan 25;261(4):544-550. PMID: 36701221
目的: 留置針の径や輸血速度が犬の濃厚赤血球液の溶血に及ぼす影響を評価すること
実験対象: 28日間保存後の犬の濃厚赤血球液(※)
方法: 留置針の径を5種類(16、18、20、22、24ゲージ)、輸血速度も5通りの方法(50、250、500、750、999mL/h)を設定して実験を行った。なお、実際に生体に輸血するのではなく、留置針の先端から直接、検査用の採血管に滴下して採材し、赤血球数、ヘマトクリット、ヘモグロビン、CPK、リンの値により溶血の程度を評価した。
結果: 対照群と比較して、輸血速度はいずれも明らかな溶血を引き起こしていなかった。一方、留置針が細くなるほど上記の評価指標が悪化傾向にあったため、溶血が起きたものと思われた(P<0.05)。
臨床的意義: 貧血や出血の治療手段として、輸血療法は獣医療においても一般的に用いられている。今回の研究により留置針が細くなるほど溶血の程度に悪影響を及ぼすことが明らかとなったため、輸血の際は可能であれば太い留置針を選択することが望ましいと思われた。
※訳者注: Abstractでは「A fresh unit of canine RBCs(新鮮な犬の濃厚赤血球液)」とありましたが、本文では28日間保存した犬の濃厚赤血球液を用いたと記載していたため、そのように修正致しました。
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