輸血の副作用には様々なものがありますが、輸血感染症は輸血前の検査が重要な位置を占めています。医療の世界では日本赤十字社が感染症スクリーニング検査を一手に担ってくれていますが、獣医療では各獣医師の采配によって感染症検査をどこまで行うか考える必要があります。献血の度に検査を行うべきか、年に一度など期間を定めて行うべきか、あるいはドナー登録時のみ実施するべきか。予防歴が充分であればPCRなど特殊な感染症スクリーニング検査は行わないという先生方もいらっしゃると思います。
そこで今回ご紹介させて頂く文献は、イタリアの動物用血液バンクでの節足動物媒介性の病原体保有率に関するものです。日本、特に首都圏ではここまで高い保有率ではないように思いますが、改めて輸血と感染症について考えさせられる結果となっています。リンク先では本文までフリーテキストで読めるようになっていますので、是非ご覧頂ければと思います。
(担当: 瀬川)
犬における節足動物媒介性の病原体に関する追跡調査: 動物用血液バンクにおける10年間の傾向と課題
著者: Giulia Morganti, Arianna Miglio, Iolanda Moretta, Ambra L Misia, Giulia Rigamonti, Valentina Cremonini, Maria T Antognoni, Fabrizia Veronesi.
掲載誌: Vet Sci. 2022 Jun 6;9(6):274. PMID: 35737326
背景: 犬の節足動物媒介性の病原体(CVBPs) は輸血によって伝播し、人獣共通感染症としての側面も有するため、獣医輸血療法において重要なテーマのひとつである。
研究方法: イタリア中央部の動物用血液バンクで2012-2021年の間にドナー犬のスクリーニング検査を実施し、それらをもとにCVBPsに関する追跡調査を行った。Leishmania infantum、Ehrlichia canis、Anaplasma phagocythophilum、Babesia canis、Rickettsia conoriiに対するIgG抗体の検査には蛍光抗体法(IFAT)、Dirofilaria immitis、Dirofilaria repensの検査にはノット変法およびELISAキットを使用した。
結果: ドナー1260頭中324頭(25.71%) が少なくとも一種類のCVBPsに対して陽性反応を示した。最も陽性率が高かったCVBPsはLeishmania infantumの12.22%であり、その他はEhrlichia canisが2.30%、Anaplasma phagocythophilumが1.19%、Dirofilaria repensが0.95%、Dirofilaria immitisが0.32%、Babesia canisが0.16%であった。Rickettsia conoriiのデータは2012-2014年のものに限られるが、有病率は20.12%であった。複数種類の混合感染は21頭で確認された。今回調査した全てのCVBPsに関して、追跡調査期間中での有病率の有意な変動はみられなかった(p<0.05)。
結論: ドナーにおけるCVBPs保有率の高さは軽視できないレベルであり、内部寄生虫や外部寄生虫の定期的な駆除に関する厳格なルールを設定してドナーを選別する必要がある。また、血液バンクは地域の疫学的な情報が集まるところとして有用であることが確認された一方、より実用性の高いスクリーニング検査方法については議論の余地がある。
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