今回紹介する論文は以前の学術講習会の中で取り上げたことのある、輸血後のPCVチェックのタイミングに関するものです。輸血効果の確認のため、輸血終了後は血液検査を行いPCVが順調に上昇しているかどうかを確認する必要があります。しかしながら、事前に想定していたPCVの上昇幅が最大限生きてくるのは輸血直後か、あるいは数時間後なのかは定かでありません。教科書的には輸血2時間後に検査を行うべきと書かれていたり、24時間してはじめて循環動態が安定すると言われたりもしますが、特に輸血が必要な救急の場面では輸血効果の確認が速やかに出来るに越したことはありません。
そこで、今回紹介する論文は輸血終了直後から4時間後にかけて複数回血液検査を実施し、輸血効果の確認をいつするべきか検討しています。結果、輸血終了直後~4時間後のいずれの時点においてもPCVに変動はなく安定していたデータが得られています。したがって、輸血効果のPCVチェックは輸血終了直後を含めた任意のタイミングで実施して構わないと同時に、もしPCVが順調に増加していなければ溶血性輸血反応が生じていないかなど原因追及を行う必要性があるだろうと思われます。
とてもシンプルで実践的な研究内容となっておりますので、ぜひ明日からの診療に生かしてみてはいかがでしょうか。
(担当: 瀬川)
貧血の犬における輸血後のPCVチェックを行う適切なタイミングについて
著者: Jennifer L Morris, Christopher P Bloch, Tamera L Brabson.
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2021 Mar;31(2):215-220. PMID: 33118669
目的: 貧血を呈する犬に濃厚赤血球液を輸血した後に複数回採血を行ってPCVを比較すること、そして貧血の基礎疾患や赤血球再生像の有無が輸血後のPCVに及ぼす影響を評価することを目的とした。
研究デザイン: 2016年11月~2017年10月にかけて前向き観察研究を行った。
研究拠点: 小動物の救急/専門診療施設
研究対象: 46頭の貧血を呈する症例犬に実施した濃厚赤血球輸血50例
研究方法: 輸血前、輸血終了直後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後の時点でPCVを測定した。また、貧血の基礎疾患は出血、溶血、無効造血に大別し、赤血球再生像の有無、持続性の出血や溶血の有無に関しても分類することとした。
主要な結果: PCV平均値は輸血前が15%であり、輸血終了直後は28%、30分後、1時間後、2時間後、4時間後のいずれも27%であった。輸血後のPCVはどの時点においても統計学的に有意な差はみられず、同程度の値と判断された。そして赤血球再生像、持続性の出血や溶血の有無に着目して分類した場合でも、輸血後のPCVが特定の疾患で変動していることは無く同程度の値であった。
結論: 貧血を呈する犬において輸血終了直後から4時間後までPCVの変化はみられなかった。したがって、輸血終了直後にPCVをチェックすることは、標準的とされている輸血2時間後のPCV測定と同様に信頼性の高いデータであることが示唆された。また、その傾向は持続性の出血や溶血がみられる場合でも同様であった。
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