今回紹介する論文は、猫の尿道閉塞と輸血に関するものです。タイトルだけみた際、個人的な経験則では尿道閉塞と輸血は直接的に結びつかないように思ったのですが、やはり本文をみても尿道閉塞の症例に輸血を実施するケースは2.1%と低頻度でした。
しかしながら、会陰尿道造瘻術を行う症例は輸血実施について警戒する必要があり、輸血が必要な症例は残念ながら死亡退院となる危険性が高まるなど、重篤な症例ほど輸血適応が無視できないと言える結果でもありました。複雑化する病態をクリアにする為、支持治療である輸血療法で足を引っ張られないように日頃から準備を進めていきましょう。
(担当: 瀬川)
尿道閉塞と輸血: 猫575頭の回顧的研究
著者: Francesca P Solari, Megan A Mickelson, James Bilof, Adesola Odunayo, Jourdan B McPhetridge, Valery F Scharf, Lingnan Yuan, Jonathan P Mochel, Rebecca A Walton.
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2024 May-Jun;34(3):262-267. PMID: 38728082
目的: 猫の尿道閉塞症例における輸血の実施率ならびに輸血適応となるリスク因子を評価すること。また、輸血を実施した症例とそうでない症例の入院期間を比較することも目的とした。
研究デザイン: 多施設共同で2009-2019年のカルテ情報を回顧的に解析した。
研究拠点: 北米の大学附属動物病院4施設
研究対象: 尿道閉塞622件(猫575頭)
介入: 無し
方法と結果: 重度貧血(PCV20%未満)を呈しているケースは1.0%(622件中6件)であり、入院中に輸血を実施したケースは2.1%(622件中13件)であった。また、輸血を実施した猫は体重が軽い傾向にあり(4.9 vs 5.8 kg; P = 0.034)、初診時のPCVがより低かった(30% vs 41%; P < 0.001)。入院期間(240 vs 72時間)および尿道カテーテル留置期間(168 vs 48時間)は輸血を実施した猫の方で有意に長かった(P < 0.001)。一方、クレアチニン濃度は輸血実施と関連性がなかったが、輸血を実施した猫はBUNがわずかに高い傾向にあった(43 mg/dL vs 33 mg/dL; P = 0.043)。会陰尿道造瘻術を実施した猫は手術をしていない猫と比較して輸血実施率が高かった(5.5% vs 0.97%; P < 0.001)。症例全体の生存退院率は96%であったが、輸血を行っていない猫は有意に生存退院率が高かった(オッズ比14.7, 95%信頼区間: 1.8-37; P < 0.001)。
結論: 尿道閉塞を呈した猫が重度貧血を呈して輸血が必要となる場面は少なかった。しかしながら、輸血を実施した症例については死亡退院率が高まる傾向にあり、輸血適応であることは予後不良因子であることが示唆された。また、会陰尿道造瘻術が必要な症例は輸血実施率が高く注意が必要である。
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