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クロスマッチはゲルカラム法が主流?

更新日:2023年8月17日

急性溶血性輸血副作用を警戒する上で注意するべき犬の血液型として、日本国内ではDEA1.1が判定可能です。犬はこの抗原に対する自然抗体を持たないとされていますが、その他の血液型、例えばDEA7に対する自然発生抗体は、50%のDEA7陰性犬が保有していると報告されています。溶血性輸血副作用のリスクなど、抗DEA7抗体の臨床的意義は未解明の部分も多くありますが、今回紹介する論文では複数のクロスマッチ方法を用いて抗DEA7抗体の有無を調べています。

以前、「輸血による同種免疫感作」という論文を取り上げた際、ゲルカラム法と免疫クロマトグラフィ試験紙法の有用性を紹介しました。その時も日本のクロスマッチ方法(試験管凝集法)との違いを感じていましたが、本論文では遂にゲルカラム法を標準法として、試験管凝集法と免疫クロマトグラフィ試験紙法の比較を行っています。試験管凝集法こそゴールドスタンダードとみていたので大変驚きました。

調べた限りでは、日本国内でもバイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社からゲルカラムとその専用遠心機を購入すれば、ゲルカラム法で出来ない訳ではないようですが費用面が懸念されます。さておき、上述の論文とは異なり免疫クロマトグラフィ試験紙法の不確かさも指摘されていますので、是非ご覧下さい。(担当: 中村、瀬川、森下)


DEA7型不適合の検出におけるクロスマッチ方法の比較


著者: Eva Spada, Roberta Perego, Luis Miguel Viñals Flórez, Maria Del Rosario Perlado Chamizo, Luciana Baggiani, Paola Dall'Ara, Daniela Proverbio.


掲載誌: J Vet Diagn Invest.2018 Nov;30(6):911-916. PMID:30280647


目的: 犬赤血球抗原(DEA)7型に対する血液型不適合を特定するため、ゲルカラム法、試験管凝集法、免疫クロマトグラフィ試験紙法の3種類のクロスマッチ方法を比較すること。


方法: まず42頭の犬のDEA7型を判定したところ、2頭がDEA7(+)であった。残り40頭の DEA7(-)血漿と、2頭のDEA7(+)および3頭のDEA7(-)赤血球を用いてゲルカラム法によりクロスマッチを行い、抗DEA7抗体を特定した。続いて、ゲルカラム法でクロスマッチ陽性であった組み合わせ21組と、陰性であった19組の血漿および赤血球を用いて、試験管凝集法および免疫クロマトグラフィ試験紙法によりクロスマッチを行った。ゲルカラム法と試験管凝集法、免疫クロマトグラフィ試験紙法の一致度を比較するため、コーエンのカッパ係数(κ)を算出した。


結果: ゲルカラム法と同じクロスマッチ結果が試験管凝集法で得られたのに対し、免疫クロマトグラフィ試験紙法でクロスマッチ陽性と判定された組み合わせは、40組の中で1組だけであった。ゲルカラム法と試験管凝集法の結果間には統計的に有意な関係があり完全に一致したが(p<0.000、κ=1.000)、ゲルカラム法と免疫クロマトグラフィ試験紙法の結果間に統計的に有意な一致はみられなかった(p=1.000、κ=0.0453)。


結論: ゲルカラム法および試験管凝集法はDEA7型に対する血液型不適合を特定するために有用な方法であるが、免疫クロマトグラフィ試験紙法では特定できなかった。


※一部、本文より抜粋して加筆、修正させて頂きました。


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