top of page

輸血適応疾患の検討: 犬と猫の殺鼠剤中毒

6月29日
読了時間: 3分

殺鼠剤は急性毒剤と抗凝血剤に大別されますが、獣医療において殺鼠剤中毒というとワルファリンなどクマリン系の抗凝血剤が有名です。クマリン系の殺鼠剤はビタミンKの代謝拮抗剤であり、活性化にビタミンKが必要な凝固第II、VII、IX、X因子を阻害することでその効果を発揮します。したがって、輸血による活性化凝固因子の補充や貧血の是正、ビタミンKの投与がクマリン系殺鼠剤中毒の治療として考えられていますが、以前の研究において脂溶性であるビタミンKの可溶化剤としてTween-80を用いたものはアナフィラキシー様の過敏性反応を生じる可能性が報告されています。

そこで今回紹介する文献は、殺鼠剤中毒の症例に対して可溶化剤としてレシチンを用いたビタミンK1製剤投与の安全性評価、ならびに輸血療法の併用によって予後が異なるのかを評価しています。結果、ビタミンK1投与と輸血療法の併用による予後のさらなる改善は見られず、ビタミンK1単剤で安全性、治療効果共に充分である可能性が示唆されています。

なお、回顧的研究であるため、本文をみるとビタミンK1と輸血療法併用群で貧血症例が多いなど、背景に偏りがある点は注意が必要です。殺鼠剤中毒の症例の輸血適応について、今回の文献を通じて今一度検討されてみてはいかがでしょうか。

(担当: 瀬川)


殺鼠剤中毒に対するビタミンK1静脈内投与の有効性: 犬および猫58症例の回顧的研究


著者: Camille Dartencet, Céline Pouzot-Nevoret, Marine Poupon, Mark W Kim, Bernard Allaouchiche, Alexandra Nectoux.


掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2026 May 26. PMID: 42189143


目的: 可溶化剤としてレシチンを用いたビタミンK1の静脈内投与の安全性を評価し、犬や猫の殺鼠剤中毒の治療法としてビタミンK1単剤あるいは輸血療法の併用により凝固因子を補充することで予後が異なるか比較することを目的とした。


研究デザイン: 2010年1月~2022年1月の期間を対象とした回顧的研究


研究拠点: 大学附属動物病院


研究対象: 犬47頭、猫11頭


実験介入: なし


方法: 殺鼠剤中毒と診断した犬および猫のカルテを検索し、ビタミンK1を5mg/kgで静脈内投与した58症例を抽出した。その58症例のうち、輸血により凝固因子を補充することなくビタミンK1単剤で治療を進めた症例をVK群、輸血による凝固因子補充とビタミンK1を併用した症例をVK-CF群に分類した。


結果: ビタミンK1による有害事象は幸い一例もみられなかった。VK群、VK-CF群共に29症例ずつ分類されたが、新鮮凍結血漿を投与した症例はみられず、使用されたのは主に保存全血であった。全症例において来院後24時間以内にプロトロンビン時間が基準範囲内に改善し、両群の生存率に有意な差はみられなかった(犬: VK群96%、VK-CF群85%; P=0.22、猫: VK群、VK-CF群共に100%生存)。


結論: 可溶化剤としてレシチンを用いたビタミンK1の静脈内投与に明らかな副作用はみられず、殺鼠剤中毒の犬および猫において輸血療法を併用せずともビタミンK1単剤で充分な治療効果を得られる可能性が示唆された。

 
 
 

最新記事

すべて表示
誤解凍の血漿製剤

新鮮凍結血漿は有効性を維持する目的や細菌増殖リスクを減らすためにも、解凍後、速やかに使用することが求められています。しかし今回の論文では、冷凍庫のドアがひと晩意図せず開け放たれたままアラームも正常に動作せず、犬の新鮮凍結血漿が11検体、猫の新鮮凍結血漿が7検体、猫の保存凍結血漿が5検体誤まって解凍されてしまった、という不幸な事故から得られた血漿製剤の有効性に関するデータを紹介しています。 結論とし

 
 
 
犬の血液型Kai1とKai2

これまで新しい血液型としてDalについては何度か取り上げたことがありますが、Kai1とKai2について取り上げたことがありませんでした。2017年に韓国の研究者が発見した血液型であり、Kaiとは韓国語で犬のことを指すそうです。この血液型は異型輸血により同種抗体が産生されることから、2回目以降の輸血では溶血性輸血反応を生じる恐れのある抗原として重要視されています。また、モノクローナル抗体が作製された

 
 
 
猫と犬の異種間交差適合試験

以前、犬の濃厚赤血球液を猫に異種間輸血した文献を紹介しましたが、今回はIn vitroにおける猫と犬の異種間での交差適合性について着目した研究です。結果、あくまでIn vitroではありますが、B型猫はA型猫よりも犬の血球の方が3.4倍も適合しやすいという内容に大変驚かされました。特にB型猫は遭遇頻度が低くドナーの確保が困難となりますので、危機的出血時など一刻を争う場面で「不適合と分かっているA型

 
 
 

コメント


日本獣医輸血研究会 事務局

お問合せ先

Mail: info@jsvtm.org

bottom of page