以前、こちらで紹介させて頂いた猫の新しい血液型に関する続報を、今回と次回に渡り紹介したいと思います。前回の論文を簡単にまとめると、輸血歴のないA型猫同士に対して様々な組み合わせでクロスマッチを行い、元々有している自然抗体の有無を調査していました。結果、7%の猫はA/Bシステムとは異なる抗原に対して自然抗体を有しており、その抗体に反応する抗原をFeline erythrocyte antigen(FEA)1-5として5種類報告しています。
今回紹介する論文はその中でもFEA1に注目したものであり、FEA1陰性猫に実験的にFEA1陽性血を輸血するとどうなるかを研究しています。詳細は本文をご覧頂ければと思いますが、抗FEA1抗体は抗体価こそ低いもののIgMクラスのものが産生されており、FEA1抗原は溶血反応のリスク因子になる可能性が示唆されています。
A/Bシステムでは説明のできないクロスマッチ不適合や溶血反応を経験されたことのある先生方は少なからずいらっしゃると思います。知識のアップデートにぜひご一読下さい。
(担当: 瀬川)
FEA1陰性猫にFEA1陽性血を輸血した場合の同種抗体産生
著者: Alyssa Cannavino, Dana LeVine, Marie-Claude Blais.
掲載誌: J Feline Med Surg. 2022 Jun;24(6):e124-e130. PMID: 35510900
目的: FEA1陰性猫にFEA1陽性血を輸血した場合、抗FEA1抗体がどれくらいの日数で産生されるか、輸血後時間経過に伴う抗体価の変動、免疫グロブリンのタイプを明らかにすることを目的とした。そしてFEA1の血液型判定に用いる抗FEA1ポリクローナル抗体の作製を二番目の目的とした。また、FEA1陰性猫にFEA1陽性血を輸血した際の急性溶血性輸血反応に関しても言及することとした。
方法: 本研究は前向き研究であり、まずは35頭のA型猫をFEA1-5に分類した。そのうちFEA1陰性猫2頭を輸血レシピエントとして、クロスマッチ適合を確認してFEA1陽性血を50mL輸血した。特に溶血反応が起こることなく輸血は無事に終了し、輸血後に抗FEA1抗体が検出されなくなるまでゲルカラム法を用いてクロスマッチを繰り返し実施した。
結果: 輸血後5日目には抗FEA1抗体が検出されるようになり、2頭のうち1頭は輸血後400日以上、抗FEA1抗体の産生が持続していた。どちらの猫も抗体価は比較的弱いものの(1-8倍)、免疫グロブリンのタイプはIgMであった。
結論と臨床的意義: FEA1陰性猫にFEA1陽性血を輸血した場合、輸血後5日目には抗FEA1抗体の産生が確認された。したがって、FEA1抗原は溶血性輸血反応を引き起こす可能性のある抗原であることが示唆され、以前の研究では抗FEA1抗体を自然抗体として有する猫が少数いたことから、仮にA型猫同士の初回輸血であったとしても輸血前にはクロスマッチを行うべきと考えられた。この抗FEA1抗体の臨床的意義に関してはさらなる研究が必要であり、A/Bシステム以外にFEA1抗原に関する血液型判定も一般化できるようにすべきである。
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