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猫の新しい血液型-続報3

今回も猫の新しい赤血球抗原(FEA)に関する論文をご紹介します。前回の論文では、FEA4に対する免疫反応を調べる過程で、偶然にもFEA6という新たな抗原が発見されたというものでした。今回はそのFEA6を詳しく調べた論文になります。

これまでの研究によりFEA1-5が明らかとなっていましたが、FEA6はそれらとは異なる抗原であり、今回の研究ではA型猫の67%が陽性という高い発現率を示していたそうです。一方、自然発生同種抗体(NOAb)はFEA1陰性の猫で多く見られたとのことですが、FEA6に対するNOAbは認められなかったとあります。

前回の論文において、FEA6に対して急性溶血性輸血反応を引き起こす可能性のあるIgM抗体が輸血後に産生されたことを踏まえて考察すると、FEA6は犬のDEA1.1のように2回目以降の異型輸血においては注意が必要なのかもしれません。今後、FEAの研究がさらに進むことで、猫の輸血医療の安全性向上につながることを期待したいと思います。

(担当: 中村)


FEA6の出現率および他のFEAとの発現パターン


著者: Félix Bajon, Julie Arsenault, Marie Claude Blais


掲載誌: J Vet Intern Med. 2025 May-Jun;39(3). PMID: 40214013


背景: 過去の報告において、5種類の新しい猫赤血球抗原(FEA)およびその中でもFEA1が溶血性輸血反応の抗原となり得ることが明らかとなっている。そして、FEA4がFEA1同様に免疫原性を有するのか感作実験を行っていたところ、予期せず未知の抗原に対する同種抗体が産生され、この抗原のことを既報にてFEA6と命名した。


目的: 新たに発見したFEA6の発現頻度を評価し、対応する自然発生同種抗体(NOAb)の同定および既知のFEA間との関連性を調査すること。


供試動物: 検査を行った猫207頭のうち、A型である193頭を対象とした。


方法: FEA1-6の血液型判定を実施した後、3-7頭のグループに分けて交差適合試験を行ってNOAbの検出とターゲットであるFEAを特定した。FEA6と他のFEAとの一致率を解析し、各FEAとの関連性を評価した。


結果: 193頭のうち、129頭(67%)がFEA6陽性であった。また、FEA6と他のFEAとの一致率の解析から、FEA6はFEA1-5とは異なる抗原であることが示唆された。NOAbは11頭(5.7%)で検出されたが、いずれもFEA6に対するものではなかった。FEA1陰性の猫はNOAbを有する確率が高かった(オッズ比=6.6、95%信頼区間=1.9–23.1、p<0.001)。さらに、FEA1陰性猫は100%FEA4陽性であったり、FEA3陰性猫は90%がFEA5陽性であるなど、一部のFEAの間に有意な発現パターンの関連性が認められた(FEA1/FEA4: χ²=25.7、p<0.001; FEA3/FEA5: Fisherの正確確率検定においてp<0.001)。


結論と臨床的重要性: 新たに同定されたFEA6は免疫原性および発現率の高さから、臨床上の重要性ならびに輸血後の感作リスクに関して懸念が示される結果となった。また、FEA1/FEA4およびFEA3/FEA5の組み合わせは、それぞれ独立した抗原系に属する可能性が示唆された。

 
 
 

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