当サイトにおいても「猫の輸血用血液製剤の保存」というタイトルで、特殊な採血システムを用いて猫の輸血用血液の保存に取り組んでいる報告を紹介させて頂きました。その報告で使用されている特殊な採血システムは残念ながら日本では入手できませんが、今回紹介する報告は日本でも入手可能なCPDA-1液とテルモの分離バッグ(150mL容量)を用いた開放式の血液製剤作製方法にて検討しています。
結論としては、採血後21日経過した時点から色々なパラメーターに変化が出始めているようなので、それより前であれば赤血球の有効性を維持したまま輸血に供することのできる可能性が示唆されています。あくまでin vitroの研究なので、輸血後に生体内でどのような挙動を示すかは不明ですが、日本国内で猫の輸血用血液の保存に取り組もうとしている施設にとっては重要な意味をもたらす研究報告です。ぜひご覧ください。
(担当: 瀬川)
開放式で作製した猫の全血製剤を35日間保存した場合の品質評価
著者: E Spada, R Perego, L Baggiani, P A Martino, D Proverbio.
掲載誌: Vet J. 2019 Dec;254:105396. PMID: 31836164.
目的: 輸血用に採取、保存される猫の血液が増加しているにもかかわらず、保存が猫の血液に与える影響を評価している報告は少ない。そこで、本研究は猫の血液を保存することによって、いつどのように血液、生化学的指標の変化が生じるか評価することを目的とした。
方法: 開放式により猫の輸血用全血を12検体用意し、採血日から7日ごとに35日までサンプリングして品質評価を行った。具体的な評価項目は、①CBC、②溶血率、③形態学的指標(棘状赤血球への変化をスコア0-3で評価)、④生化学検査とし、初日と35日目には細菌培養検査も実施した。それぞれの項目は初日のデータと比較して統計解析を行い、P<0.01の場合に有意な変化とみなすこととした。
結果: CBCに関しては保存期間を通じて有意な変化がみられなかった。一方、溶血率と形態学的指標は採血後21日目から有意な変化が生じており、それぞれP=0.000、P=0.004であった。生化学検査ではグルコース濃度が21日目から減少(P=0.003)、カリウム濃度が7日目から上昇(P=0.001)、ナトリウム濃度が28日目から上昇していた(P=0.009)。細菌培養は陰性であった。
結論: 開放式によって作製した猫の輸血用血液製剤は、時間の経過と共に有意な品質の変化が認められた。これらの変化は保存した猫の輸血用血液製剤の有用性に影響を与えるものと推測されるが、実際の臨床的意義に関してはさらなる研究を期待したい。
Comments