猫からの献血を考える際は多くの場合に鎮静処置が必要となるものの、無鎮静の場合でも合併症に困ることは多くなかったとする報告を以前紹介させて頂きました。その報告は32頭の猫から115件の献血採血を対象としたものでしたが、今回紹介させて頂く研究はわずか5年のうちに7,812頭の猫から29,201件もの献血採血を実施してその合併症の頻度を調べたものとなります。
本研究は鎮静処置を施した方が合併症が少ないので前向きに検討するように推奨されており、鎮静処置の詳細は猫一頭につきジアゼパム(0.54 mg)、ケタミン(2.71 mg)、ブトルファノール(0.14 mg)を静脈内へ混注しています。液体量として合計0.15mLになるそうで、少なくて投与しやすいかもしれませんが、全体的に薬用量が少ないような印象も受けました。以前に別の記事で紹介したアルファキサロンやデクスメデトミジンを筋肉内注射するプロトコルとはまた異なるものですが、興味深い内容となっています。また、本研究は鎮静処置だけに注目した研究ではありませんので、是非本文も含めてご覧頂ければと思います。
(担当: 瀬川)
猫の献血29,201件に関する回顧調査
著者: Samantha S Taylor, Helena C M Ferreira, André F P Cambra, Giovanni Lo Iacono, Kamalan Jeevaratnam, Ignacio Mesa-Sanchez, Rui R F Ferreira.
掲載誌: J Vet Intern Med. 2024 Oct 12. Online ahead of print. PMID: 39394936
背景: 猫の診療を考える上で輸血療法は重要な地位を占めることは違いないが、同時にドナー猫の安全性を確保することは必須である。献血ドナーの合併症としては、一般的に心肺機能や血管穿刺のトラブルに由来するもの、あるいは行動異常にまつわるものが指摘されている。
目的: 猫の献血について大規模に研究することで、鎮静処置や抗不安薬の投与の是非、献血採血量の実際、合併症の頻度、種類、リスク因子を明らかにすることを目的とした。
供試動物: 動物用血液バンクにて5年間にドナー猫7,812頭から29,201件行った献血採血を対象とした。
方法: ドナー猫の個体情報、献血採血量、鎮静処置の実施、献血回数、合併症を回顧的に調査し、猫の献血採血に関する合併症のリスク因子とオッズ比を評価した。
結果: 猫の献血において合併症の発生率は0.29%と非常に低頻度であり、最も多いもので血圧低下や頻呼吸など心肺機能にまつわるものが0.08%、次に多いのは他の猫を威嚇したり粗相をするなど行動異常に該当するものが0.06%であった。合併症のリスク因子となったものは唯一、無鎮静で献血採血を行うことであり、鎮静下献血と比較して4.4倍の頻度で合併症が起きやすかった(95%信頼区間: 2.5-7.9、P≤0.0001)。
結論と臨床的意義: 猫の献血採血で合併症が生じることは稀であり、適切な鎮静処置を施すことでより安全に採血を行うことが可能であった。また、キャットフレンドリーな環境整備やハンドリングを心掛けることも当然ドナーのストレス緩和に有用と思われる。そして献血後、自宅へ帰ってから気がいら立ったり粗相をするなどのストレス行動が少数みられる可能性を事前に説明しておくことも重要である。
Comments