昨年12月にDal抗原のモノクローナル抗体が開発されたことを記事にしましたが、今月はDal抗原に関してだいぶ苦労されている症例報告を紹介したいと思います。2回目の輸血前のクロスマッチにおいて、なんと10頭以上とクロスマッチしてようやく適合ドナーが2頭だけみつかったそうですが、その原因は症例がDal陰性だったからという報告です。
皆様も複数回目の輸血時、DEA1.1は適合させているはずなのにクロスマッチがあわない、というような経験があるのではないでしょうか?Dalは日本では判定できない血液型であるだけに、知識として把握しておかないと説明のつかない輸血副反応に遭遇する危険性があります。特に日本でも人気犬種であるシーズーはDal陰性の確率が高いとされていますので、ご注意ください。
(担当: 瀬川)
フォンウィルブランド病とエーリキア症に罹患したDal陰性ドーベルマンにおけるクロスマッチ不適合
著者: Andreza Conti-Patara, Thandeka R Ngwenyama, Linda G Martin, K Jane Wardrop.
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2021 Mar;31(2):274-278. PMID: 33119193
目的: フォンウィルブランド病、エーリキア症、非再生性貧血、そしてDal抗原によるクロスマッチ不適合を呈した重症例の経過を述べることを目的とした。
症例概要: 13週齢、未去勢、体重7.2kgのドーベルマンが出血傾向ならびに進行性の非再生性貧血を主訴に救急診療科へ来院した。なお、重篤な貧血により来院8日前に新鮮全血輸血を実施されていた。来院時は頻拍かつ可視粘膜色が蒼白であり、CBCではPCV11%と非再生性貧血を呈していた。犬種からフォンウィルブランド病であることが疑われ、後になってフォンウィルブランド病であることを確認した。症例の血液型はDEA1.1陽性であったが、DEA1.1陽性、陰性の赤血球製剤を4検体用意しても、すべてクロスマッチ不適合の結果であった。そこで、Dal抗原に対する同種抗体を有していることが疑われ、11頭のダルメシアンとドーベルマンをドナーとしてクロスマッチを行ったところ、そのうち2頭だけが適合となった。そのドナーからの献血により特に問題なく新鮮全血輸血を行うことができ、骨髄検査により骨髄の細胞充実度の低下、赤芽球系低形成の結果を得た。また、SNAP4DxPlusおよびPCR検査によりEhrlichia ewingii、E. canisが陽性であった為、ドキシサイクリンによる治療を開始した。退院時のPCVは17%、さらに一週間後の再診時にはPCV24%まで改善し、一般状態は良好であった。
症例から得られた知見: 本症例はフォンウィルブランド病による出血傾向、エーリキア症による非再生性貧血、そしてDal抗原によるクロスマッチ不適合など、複数の難解な病態を呈していた。ドーベルマンはフォンウィルブランド病やDal陰性である可能性が相対的に高く、クロスマッチを実施することや犬種による血液型抗原の保有率の違いを把握しておくことの重要性が再認識された。
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